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一期一会



独身時代のもうずいぶん前の話だが、友達に食事を誘われた。

友達の職場の元上司で、もう定年して自由に暮らしているおじさんの家にお呼ばれしたのである。


事前に食べたいものを聞かれて、

「肉」とだけ返信しておいた。


そのおじさんの自宅にいくと、ローストビーフがどかんと置かれていた。

おじさんは、
「もう、肉って聞いて困ったよう、なに用意していいかわかんなかったから、とりあえずこれで」
と、困ってるけど嬉しいようなそんな顔をして招き入れてくれた。

おじさんは勝新太郎のような風貌で、今は和やかだが、癖のある人生を送ってきたんやろうなあ、という趣きを感じさせた。

おじさんとわたしの音楽の趣味が大変合い(ジャズとソウルミュージックだ)、意気投合してすぐに仲良くなった。

肉ばかりを食べる姿や、ラファエルサディークのライブDVDに熱狂するわたしに、おじさんは大いに喜んだ。

その後、おじさんとわたしは音楽談義に花を咲かせ、いろいろ話していくうちに、おじさんの私生活の話にもなった。

どうやら奥さんとの間に確執があるようなのだ。離婚してるのか別居してるのか知らないが、とりあえずおじさんは一人で暮らしているのだ。
もういい歳をしたおっさんだけど、背中は意固地になってさみしそうな少年そのものだった。

「素直に謝ってみたらどうですか」とおじさんに言うと、
「そんなことはできないよ」と、意地になった。

ベランダでぷかぷか煙草を吸っているわたしの姿を、おじさんは切なげに見るのである。


しばらく経って、ふとおじさん元気かな?と思い出し、ブルーノートであるライブに行きませんかとメールを送った。

返事が返ってこないなあと思ったら、友達から電話がかかってきた。

おじさんが死んで、今からお通夜やねん、ということだった。


結局二度しか会ってないが、別れというのは常に唐突なものである。


少年のように喜んだり、素直になれず苦しみ、孤独な空気をまとった姿が思い出された。

おじさん、謝れんかったままなんかな、きっと、と思いながら、しとしと降る雨を見つめた。






by mosottto | 2017-03-15 11:31 | エッセイ