カテゴリ:小説 ( 2 )

小説 風子➁



風子の生まれて一番最初の記憶が、母と車の後部座席に座り、楽しそうに歌を歌ってる自分の姿だった。



もしも

明日が

雨ーならばー

愛する人よ

そばに居てー


そんな歌詞を4歳の風子は楽し気に口ずさんでいたのだ。


ふと母の顔をのぞくと、母も嬉しそうに風子の歌を聴いていた。

何度も何度もその歌を歌うたびに、風子は母の手を握りしめた。

母もまた、強く風子の手を握り返したのだ。



母は前世の記憶を覚えてる’人’だった。

過去生で自分の子供と引き裂かれてしまったので、生まれ変わったら絶対に放すまい、と強く自分の心に誓っていた。


母が風子を見つめる眼差しは、風子という存在を通り越して、遥か昔の景色を懐かしんで観ているようだった。



つづく。



[PR]
by mosottto | 2016-07-10 07:50 | 小説  | Comments(0)

小説 ’風子’①





風子はいつも自転車をこいで、坂道を下るのが好きだった。


風と同化していく自分を感じることが、現実の世界を一瞬でも忘れさせてくれるような気持ちになるからだ。


遊園地のフリーフォールも好きだった。


ふわりと一瞬体が宙に浮かび、小さくなった街を見下ろし、自分は雲の上にいるような気分になるからだ。


それも、現実と空の世界を分離させてくれる。



風子は早く、空に「戻りたかった」のだ。


早く、あのふわふわとした、あたたかくて、母親の子宮の中にいるような、安心と愛だけに包まれたあの世界へ、戻りたかったのだ。




でも、現実はそうさせてもらえなかった。


中学生の時、3つ上の兄の方が先に空へ戻ってしまった。


風子は「ああ、」とため息をつく。


まだまだ、あたしは、あの空へは戻らせてもらえない。


ぽんと産み落とされたこの地上で、やることがたくさんあるようなのだ。





つづく。


[PR]
by mosottto | 2016-07-05 10:22 | 小説  | Comments(0)